78期の将棋順位戦の結果振り返り

将棋界が落ち着くのがちょうど今頃の季節でしょうか。毎年、順位戦も終わり一区切りという中で関係者も含めて少し気が抜けた雰囲気が漂いはじめる時期です。同時に来季のことが気になり始めたり、思索にふけるときでもあるのですが順位戦の結果によってはどうしても引きずってしまう時期でもあります。ファン目線ですけどね。ああ、あそこであと一勝とれていれば。ああ、あそこでなんとかできていれば、なんてことをファンでしかない私も考えてしまうわけで、ただこれもまた将棋の楽しみ方の一つなのかなとも思います。

第78期名人戦・順位戦も例年にもれず、見どころ満載ではありましたが、個人的には少し思うことが多いものとなってしまいました。やっぱりとにかくまずは結果が勝負である以上は重要なわけですが名人への挑戦権は渡辺三冠が見事獲得。圧巻の強さでしたので、ここはそうですよねという感じではないでしょうか。A級では木村王位と久保九段が降級となり、やはり残念な気持ちがわいてきます。

B級1組は菅井七段と斎藤慎太郎七段がA級入りし、心配されたA級の振り飛車党が不在の状態は回避されてひと安心です。そしてB級1組で降級したのが谷川九段と畠山鎮八段。谷川先生がB級2組というのはやはり思うところが多い人も多いのではないでしょうか。やはり残念です。

B級2組はどうだったかといえば、ここでは丸山忠久九段と近藤誠也六段が昇級してB級1組へ。飯島栄治七段と田村康介七段が残念ながら降級となりました。もうどのクラスでも残念が気持ちになってしまうのはつらいところです。とくにつらいのが横山泰明七段が、昇級争いで優位に進んでいて、最終戦での結果で惜しくも残留となったことはここまでいろいろな試行錯誤、努力を見てきたファンたちもつらかったはずです。私もつらかったです。ただ、こういう話をすると最終局の対局者である北浜健介八段の立場からすれば、それはまたつらい話で、もうみんな好きだからみんなに勝利をあげたくなるわけですがそうもいかないのがつらいところです。そしてB級2組では飯塚祐紀七段が連敗スタートからの5連勝で盛り返したのはさすがの一言ですよね。

C級1組ではみんな大注目の藤井聡太七段が見事に全勝での昇級を決めました。さすがの一言ですね。そしてもう一人は佐々木勇気七段。残念ながら降級となったのは塚田泰明九段と堀口一史座七段のお二人でした。こちらも残念な気持ちでいっぱいです。C級1組については昇級争いが苛烈で、最終戦の結果次第で2人目の昇級者が決まるという胸熱な展開でしたが、佐々木勇気七段、及川拓馬六段、石井健太郎五段の3人とも9勝1敗で並び、昨年度の結果からの順位で昇級者が決まるという、だれにとってもつらい結果でした。勝ち数が並んで昇級、残留がわかれるこの仕組みは、精神衛生上良くないですね。毎年のことではありますが、特に棋士の数が多いC級1組、2組はこの展開が多くおもしろいけれどつらいところです。応援しているほうも、だれかを応援することで、誰かの負けを期待してしまうわけで勝負の世界の悲しいところ。及川拓馬六段は1敗したとはいえ、昨年から考えれば順位戦で20戦して19勝して1敗なわけです。すごいことです。こんなにすごいのに残留というのは、言葉にできない不思議な感情がわいてきてしまいます。どうなってるんだ。これ。でも、まあこれがプロの将棋の世界ともいえるわけですし、去年の藤井聡太七段、船江恒平六段も同じ境遇だったわけで、みんな平等といえば平等なんですよね。でも、やっぱりつらい。

C級2組は高見泰地七段、三枚堂達也七段、古森悠太四段が昇級。桐山清澄九段と島本亮五段が降級となりました。桐山清澄九段は年齢もあり規定でフリークラスではなく引退となるということで、将棋ファンとしては思うところ多い出来事です。あのお歳で順位戦を戦い抜くって将棋の棋士としてももちろんすごいことですが、普通にただの人としてみてもとんでもないことだと思うからです。昇級争いに話を戻すと、C級1組もそうですがC級2組も棋士の数が多いだけに昇級争いが激しいですが、今年は9勝1敗の3人が昇級となり、最終的には白黒はっきりした結果となりました。ただ、8勝2敗が佐々木大地五段、西田拓也四段、大橋貴洸六段、佐藤紳哉七段、牧野光則五段と5人もいるわけですから、毎年毎年、順位を維持していかないと、ただ勝つだけではなかなか昇級できない難しさを感じます。C級2組でさらに思うのは今年は佐藤慎一五段、村田智弘七段のお二人にあと一勝してほしかったということです。降級点の消滅まであと一勝、そして残り二戦というところまできていたので、なんとかあと一勝をと思っていただけにとても残念です。降級点をなんとかひとつ消したかった。自分の事じゃないんですがやっぱり消したいです。一つ消えただけで来季の精神的なゆとりもまた違うでしょうし。もちろんファンよりもご本人のほうが残念なはずですがファンはファンなりに思うことがあります。

以上が78期の順位戦のざっとした振り返りですが、やっぱり勝負の世界なので仕方ないですが誰かが勝つと、誰かが負けるというのは、喜びと悲しみが表裏一体で複雑な気持ちになります。プロ棋士の皆さん、楽しい将棋、1年間ありがとうございました。また来季も宜しくお願いします。