将棋を好きな人を増やすためにAbemaTVの「楽屋で一局 ペア将棋」的な楽しさをもっと大切にしていくべきではないかと思った話

将棋を指す人が増えないことのひとつに、独特の風土もあるなーと思うことがあり、それについて考えさせられた出来事がありました。 将棋は指せるけどあまりやりたくない、という人はけっこういます。ルールを覚えるのも簡単ではないので、まずそれを覚えただけですごいですよといいたくなるんですが、そういう人たちの話を聞いていると自分も含めていろいろと考えないといけないなと思ったという話です。

アマチュアは別に将棋に勝ったからといって、人としてのランクがあがるわけでもないし、お金が手に入るわけでもない。まして負けても死ぬわけでもない。遊びなんだから別に弱くていいんだけど、それを許さない風土はどこからくるのか

みんなで旅行してトランプだ!UNOだ!となったとき、勝ちにはいくけどそこまで本気で臨む人は皆無で、むしろそういう人がいたら「遊びなんだから本気にならないでよ」と周囲の人は空気を読んでほしいなと思うことがほとんどです。まあまあ、遊びなんだから熱くならないでとなります。じゃあ、みんななぜカードゲームなどでみんな遊ぶのかといえば、それはみんなで何かを一緒にやることが楽しいからですよね。

でも、将棋の場合、へらへら笑っていると怒り出す人がいたりします。真剣にやりなさいと。さらに、本気すぎて負けると怒り出す人もでてきます。みんなでやって楽しかったとは真逆の、真剣に取り組んでいる自分と、そして相手に打ち勝った自分を楽しんでいる人が多いわけです。まあ、そういう人がいるというだけなら、それだけなのですが、難しいなと思うのがそうしたことを、一緒にやる人、周囲の人に強要しがちな風土があることです。もちろん、礼節というのは大切ですが、談笑しながら将棋を指すというのはNGとする場も多く、そして将棋が好きの人ほど、その文化に慣れていて、笑顔などなく、苦悶の表情を浮かべながら、対局にのぞみ、初心者相手にも熱くなり、容赦なく勝ちに行く人たちがいっぱいいます。

これ、文化というか、風土なわけで、だれかの問題というよりも見て学び、自然と受け継がれた結果、できあがったものなわけです。だれも悪気はないところがまた難しいわけで、遊びであれば本当はふざけていていいわけです。笑っていていいわけです。みんなが楽しいのが一番なんですから。でも、真剣さをもとめ、静かに、そして礼節をもった行動をとり、日々、詰め将棋をやりつづけなさいといわれるのが、将棋好きの人たちにとっての常識です。ずっと、この世界を見ている、慣れ浸しんだ身としてはそれが将棋でしょうとも思うわけですが、冷静に考えたら、それってもう遊びじゃないですよね。

ドワンゴの叡王戦やabemaTV将棋トーナメントよりもabemaTVの「楽屋で一局 ペア将棋」が長い目でみたときの将棋界に価値があるのでは?真剣さや礼節もいいけど、楽しさをもっと追及する、笑顔、笑いが多いああいった企画はもっと評価されていいはず

テレビ中継、ネット中継は将棋ファンであれば夢中になってしまうところですが、将棋好きじゃない人からみると解説がないと、何してるかわからない沈黙の多い、暗い、絵的に見ても面白みのない番組です。

そこに一石を投じる、もっと評価されても良さそうな番組があらわれました。(だいぶ前になりますが) それがAbemaTVの「楽屋で一局 ペア将棋」です。

古くはドワンゴさんが頑張ってくれた電王戦や叡王戦、AbemaTV将棋トーナメントもすごくいい企画ですし、これやってくれているだけでドワンゴさんとサイバーエージェントさんは社会貢献している良い企業と声を大にしていいたいのですが、これらは既存の延長戦で、どこまでいっても将棋の枠に収まったものでした。もちろん、コメント機能や解説の工夫などはあるのですが、由緒ある流れの延長であることは否めません。

それに対してabemaTVの「楽屋で一局 ペア将棋」は、はっきりいって斬新です。もう勝ち負けを重視している人が皆無で、それよりもとにかく楽しさ、もはや将棋を知らない人がみても、若者が楽しんでいる姿をみて、よくわからないけど楽しくなるような、そういったいままでの将棋として押し付けられていた「勤勉さ」「勝利至上主義」「笑顔厳禁」などが皆無で、まあジャンルとしてバラエティとなっています。NHKさんも正月特番などでいろいろやっていますが、あそこらへんは将棋をテーマに芸能人のトークや進行を楽しむみたいな作りこみで、私も将棋をやってみたいと思う人が増えるようなものではありません。それに対して 楽屋で一局 をみた、まったく将棋を指さない人も、わたしもみんなで指してみようかなと思わせる”みんなでやる楽しさ”を表現しているすばらしさがあります。

パッケージ、キャスティングもすばらしかったですね。 高見泰地先生、三枚堂達也先生、八代 弥先生、佐々木大地先生の若手4名は、将棋をしらない若い世代がみても、十分おもしろそうなものだったようで、まったく将棋をやる気のない小学生たちがペア将棋をやってみたいといいはじめて、実際にふざけながらやっている姿をみて、こういう楽しさが増えるべきなのになと改めて思ったところであり、またあの番組を作られた人たちのすばらしさは、もっと評価されるべきではと思ったわけです。解説も 木村一基先生、山口恵梨子先生と、これもまたよくマッチした素晴らしいものでした。

あまり将棋に興味をもっていない子供たちが、自分もやってみたいと思うっていうのは、これ確実に正解だと思うわけです。相居飛車のタイトル戦などは、ねじりあいも難しすぎて、多くの子どもたちは見ていても完全にカヤの外です。さらに気迫が前面にですぎていて、子どもたちの興味をひくどころか、将棋って大変そうというイメージを植え付けてしまうということもあり、他のスポーツみたいにみんなでわきあいあいとして、ハイタッチしたりしてなんか楽しそう、あの輪の中に自分もはいってみたいみたいなものがなかったりするので、ペア将棋のああいった、たのしそう、という作りこみってすごい素晴らしいものだと思います。

あれを見た後、どっちが勝ったかを気にする視聴者はそれほど多くはないはずです。将棋が好きじゃない人にこそ、是非見てほしいものであり、また、ああいったものをもっと増やしていき、それを許容する文化ができあがるとみんなにとってより良い将棋になる気がしています。たのしさ、本当に難しいですが、大切にしていきたいものです。