どんな世界でも夢が壁をぶちやぶる原動力になる。将棋をメジャーなポジションに押し上げる夢とはいったんなんだろうか。

世界を変えるような”何か”というのは、そこに誰かの夢がつまっていて、その夢を見る人が多ければ多いほど、成功のインパクトは大きくなります。たとえば、もっと役に情報を手にしたい、もっといろんな人と簡単につながりたい、という夢をかなえたのはインターネットでした。普遍的であり、最大公約数的な世界中の人の夢をかなえる役割を得て、ものすごい速度で、急成長していきました。

夢には大きく2つあり、ひとつは自己実現としての他人の評価を必要としないストイックなもの。もうひとつは他者からの名声や収入によって相対的に良い生活ができるという俗的なものです。将棋はどちらかというと、ストイックな夢のタイプでいまは機能していて、「ただ好きなんです」という人たちの好意、善意によって回っているところが多く、俗物的な人たちをよせつけない小さな市場になっています。

俗物的な人たちというのは、世間一般ではマジョリティーであり、その人たちを取り込まない限り、大きな市場になることはありえません。こちらの路線でわかりやすい夢といえばは「時間」と「お金」です。人生で好きなことをできる時間と、好きなことを好きなだけやれるだけのお金が手に入るのであれば、国も、人種も、年齢も、性別も問わず、多くの人が、その夢にひかれてくるはずです。

野球の世界であれば、プロ野球選手になる=金銭的にも大きなものを手に入れるということを意味します。ただ、プレイヤー数と比較して、夢を実現できた成功者の数が少ないため、”効率”という観点で敬遠する人が多いのも事実ですが、たくさんの人に注目もされて、お金も入る可能性があるということで、一定の支持を得ているのが「プロ野球選手」という形の夢があります。

将棋界はどうかというと、そこにプロ棋士という存在があるわけですが、他の分野と比較して少し地味で、多くの人にちやほやされる、承認欲求を満たすようなものは少なく、また、単純に大金を稼げるのなら目指すというのも非常にまれであり、ほとんどの人は「好きな将棋を仕事にしたい」「将棋の良さを知ってほしい」という、欲の少ない、いうなれば謙虚な人が多く、夢の形としては非常にストイックな人たちのみにしか通用しないものになっています。

ひどい話をいってしまえば、「将棋は好きじゃないけど儲かるみたいだからやります」であったり「将棋ができるとモテるみたいだからやってみようかな」であったりと、そういった俗物的な夢を受け入れられる余地があると、メジャーなポジションは大きく近づきます。子どもも大人も、やはり生物としての本能的に「もてたい」であったり、「楽をしたい」であったりというのは共通してあるわけで、そうした欲も、夢として設定できるような懐の広い何かがあることも重要なのかもしれないと思います。(ただ、これをやると地味だから好きという、静かな趣味としての将棋が好きな人が離れる可能性があるのは難しいところ)

それこそ「プロ棋士の収入を全員2倍にする」「タイトル戦の賞金を3倍にする」といったシンプルな目標や、「将棋ビジネスを手掛けるとお金持ちになれる」「プロ棋士になれたら人生の成功者確定」といった事実など、そうしたものができてくるだけでも、また少し違ってくると思うので、ストイックに、そして謙虚にというだけでなく、より大きく、よりわかりやすい夢の設定というのは重要な施策のひとつだとも思う次第です。人の欲に働きかけるものは、残念ながら非常に強い、というのが世界の事実だからです。そういった俗的なものが好きかといわれると、むしろ個人的には嫌いだったりしますが、普及させたい、広げたい、大きくしたいという場合は、合理的なものとして、そういったものも利用しないといけないという意味でのお話でした。

次の将棋ブームはいつくるのか?

藤井聡太七段の活躍によって近年まれにみる将棋ブームが訪れたのは2017年。勢いは落ちてきたとはいえ、まだまだ将棋ブームが続いていることをうれしく思っている将棋ファンは多いのではいないでしょうか。

しかし、どんなものも栄枯盛衰。羽生善治竜王が巻き起こした以前のブームも、少しずつ下火になったのと同じように、今回も当然、いつかは終わりを迎えます。それはある意味でとても自然なことで、特に悲観するようなことではないわけですが、下火になったのであれば、またその次のブームを起こすため、というよりは、起こるための準備は当然していく必要があります。

ずばり、次の将棋ブームはいつくるのか?ということを考えていくと、これも過去から学ぶとわかりやすく、「とても強い超人的な人があらわれたとき」がこの手のブームのきっかけになります。羽生善治竜王が7冠を達成した時もまさにそうです。そう考えると、やはり、藤井聡太七段が初タイトルをとった時が、次のブームのスタートで、ピークは史上初の8冠達成の時でしょうか。

以前は7大タイトルでしたが、いまは8大タイトルとなっているだけに、網羅をすれば必ず「史上初」というわかりやすいコピーが使えるというのも、非常に魅力的です。いまは若手とベテランのせめぎあいの時期なので、タイトルホルダーも分散してしまい、「とても強い超人的な人」というのが、対外的には存在しないように見えてしまっているのが少しだけ残念なところですね。

ブームというもので一喜一憂するのは少しあれな気もしますが、とはいえ、将棋人口を増やすためには定期的なブームは必ず必要ですし、さらにはブームに頼らない地道な草の根の普及活動もとてもとても重要で、派手さと地味さのコラボレーションで、より将棋界が盛り上がっていくといいですね。次のブーム(藤井七段の初タイトル)、期待したいところです。

王座戦で中村太地王座が斎藤慎太郎七段に勝って1勝2敗で4局目へ

中村太地王座の初のタイトル防衛がかかる斎藤慎太郎七段との今回の王座戦。第三局は中村太地王座が勝って1勝2敗となり4局目へとすすみました。斎藤慎太郎七段にとっては初タイトルがかかる一局だっただけに残念な結果ではありましたが、中村太地王座にとっては初防衛へ向けたうれしい結果。どちらの見方で考えても将棋というのは悩ましいところがありますが、好局を追加でみれると考えると4局目、そして最終局へと進むのは将棋ファンとしてはうれしいところです。

それにしても今回の第3局はすごかったですね。力戦調で本当に激戦で見ている将棋ファンの多くは手に汗握っていたんじゃないでしょうか。プロの力戦は本当に見ていてわくわくしますね。次局もお二人の熱戦、楽しみですね。

今年の王座戦は中村太地王座に斎藤慎太郎七段の対局。華やかさは将棋そのものには関係ないけれど、将棋界全体でみたら大切だと思う話

将棋の秋が近づき対局も充実してきましたね。今年の王座戦は中村太地王座に斎藤慎太郎七段が挑戦するという、若手の華やかな雰囲気が注目を集めていましたが、第一局は斎藤慎太郎七段の勝利となりましたね。今後の残りの対局がとても楽しみです。防衛もしてほしいし、初タイトル獲得もしてほしい、将棋ファンって好きな棋士がひとりじゃないので、こういう時に悩ましいですね。

しかし、中継では都成竜馬五段も解説で登場されたということで、みんなわかっていますよね的な、暗黙知の共有的な何かがあっていいですね。

将棋そのものもとても面白いものですが、残念なのは直感的にそれは伝えにくいものであるということ。だからこそ、雰囲気、見た目、儀式的といった、本質からすればどうでもいいようなことも、しっかりやっていくことが重要なんだなと思わけで、そういった意味でも、もっと注目が集まってほしいのが、今年の王座戦です。中村太地王座、斎藤慎太郎七段、お二人ともがんばってほしいですね。

将棋ウォーズは将棋倶楽部24と同じ道を歩むのか?それとも?

いまやネット将棋の標準といえば「将棋ウォーズ」という感じになるくらい、安定的に利用者が多く、また知名度も抜群に高い状態になっています。

でも、数年前までは「将棋倶楽部24」が一番の地位的なものを占めていて、「将棋ウォーズ」というとなんとなく、初心者や弱い人がつかう方ですよねという、認知があったように思います。それがいまではどうなっているかというところを考えると、諸行無常を感じる今日この頃です。

そもそも将棋アプリ、ネット将棋のサービスは、将棋を打てればいいわけですから、本質的な価値に差はないわけですが、大きくゲーム性を変えたものとして棋神という、簡単に言えばチート機能が将棋ウォーズにあります。これがあったおかげで、逆にガチ将棋ファンからは、なんとなく下にみられていたわけですが、いまとなっては将棋ウォーズ側においても、高段者たちになると、あまりこの機能が使われいる感じはなく、どちらかというと、始めたばかりの人、中級者くらいまでの人の、将棋を楽しむアシスト機能的になっているように感じます。まあ、もちろん使うときはみんな使うんでしょうけど、何度か改修が加えられるなかで、棋神が前ほどの強さでなくなったことなんかも、こういう良いバランスを生んでいる気もするので、そこは運営者の皆さんの努力のたまものですね。すばらしいです。

将棋倶楽部24が、なんとなく高齢化が進み、なんとなく将棋好きを通り越して将棋フリークのみが使うプラットフォームとなった今、一般的な段位との差が大きくなりすぎて、初心者門戸を閉ざす結果となってしまったわけですが、これにより維持が基本で成長は難しい状態にあるように思われます。この状態は常に新しい人たちが入ってくることと、全体がちゃんと能力分布としてピラミッドになっていないとどこでも起こる現象なわけですが、将棋の場合、どうしても競技人口が少ないので、それが難しく、残念な結果になりがちです。そういった過去の先輩たちの問題を、将棋ウォーズは切り抜けることができるのかというのが、これからの注目ですが、やはりそこはAI、ボットくんたちがいい仕事をしているので、将棋ウォーズには末永く、将棋普及のプラットフォームとして機能してもらいたいところです。同じレベルの人がいないなら、ロボットで作っちゃえというわけですね。これ、競技人口が少ないプラットフォームを運営する中で本当に大切です。

今後、将棋ウォーズがどうなっていくのか、そういった目線でも注目したいですね。

豊島将之棋聖が誕生!初タイトル獲得でついにタイトル保持者の仲間入り

豊島将之八段がついにやりましたね。やっと、本当にやっと棋聖戦のタイトルを獲得して、ついにタイトル保持者の仲間入りを果たしましたね。これだけすごい成績を残していて、これだけタイトル戦の挑戦権を獲得して、挑み続けて、何度も跳ね返され続けての初タイトル獲得は、ファンも思うところがありますね。成績をみて、タイトルをもっていない、獲得したことがないというのがおかしい、棋界の七不思議のひとつでしたからね。本当に喜ばしいことです。おめでとうございます。

その一方で羽生善治竜王がタイトル通算100期がかかっていたこともありますし、そして簡単にいえば応援しない人がいないわけがないという人であることもあり、誰が喜ぶ一方で、悲しむ人が必ず出てしまうところが難しいところです。

豊島将之棋聖、羽生善治竜王、ともに大好きという人も多いと思うので、こういう好きな人同士の戦いというのはどちらが勝っても素直に喜びきれないというのがつらいところですね。

「将棋ってたかがボードゲームでしょ」といわれた時に「そうですね。オリンピックの100メートル決勝も、たかが”かけっこ”ですけどね」と答えた時に考えさせられること

将棋が好きな人は将棋に対してポジティブです。それに対して嫌い人は「たかが将棋」という論調になります。たかがボードゲームにという話は、まさにその通りでボードゲームの一種でしかなく、特別なものでは決してないわけです。ただ、ここで考えなければならないのは、その”たかが”というものこそが、人間が人間として成立するために重要なものであるということです。

先日も「将棋ってたかがボードゲームですよね」といわれた時に「そうですね。オリンピックの100メートル決勝も、たかが”かけっこ”ですけどね」と答えたことがあったわけですが、世界に存在する、人間が作り出したもののほとんどは”たかが”と呼ばれるようなものばかりです。サッカーはたかがボール蹴り、ピアノはたかが楽器、絵画はたかがお絵かきですし、オリンピックにでる人たちはたかが運動をしているだけです。

人間は自分が好きなものを崇高なものして、間接的に自分を崇高なものを支援している崇高な生き物にしがちです。常に自分が好きなものは素晴らしいものであると考え、逆に自分が理解できないものは、下にあるものというスタンスでとらえがちです。しかし、突き詰めていけば、どれもなければ世界が滅ぶのかといえば、そんなことはなく、世界は何も変わりません。大事なのはそれがあることで、人生を豊かなものと感じる人が生まれるという、ただその1点です。

人間が生きていくために必要なものというのは、冷静に考えるとそれほど多くはありません。でも、それだけでは人生がもったいない。ただ、起きて、労働をし、食べて、寝る。これを繰り返すことが人生のすべてというのは、あまりにももったいない。豊かな人生を歩むために、もっとこれを経験したいと思える何かと出会い、それを堪能する時間こそが価値であり、将棋を含め、たかがと呼ばれるすべては、それ自体にそれほど意味があるものではありません。

経済学的な観点からいえば、休暇は生産性を取り戻すための仕事ともいえるわけで、しっかりリフレッシュすることが重要です。そういった意味では、完全に生産性を取り戻せるような休暇の過ごし方のひとつとして、自分に合ったものが見つかれば、それは自分の人生にとっても、社会にとっても良いことであるはずです。

自分なものだけ崇高にし、理解できないものは下にみる。そう考えてしまうと対立を生むだけで何も得なことはありません。みんな好きなものと出会えてよかったね、それをやっていて幸せなら、それでいいじゃないか、だって、それでまた明日から頑張れるんだからというのが、適切な考え方なんじゃないかと思った次第です。

みんな自分が本当に好きになれるものに出会えるといいですね。もちろん将棋はおすすめですけど。

藤井聡太七段が竜王戦決勝トーナメント1回戦で都成竜馬五段に勝利。安定感がすごいことになってきてますね

どんな対局も注目されるというすごいことになってきてきる藤井聡太七段が、竜王戦決勝トーナメントの初戦で都成竜馬五段と対局。見事に藤井聡太七段が勝ち切って2回戦に進出。もちろん前からすごいわけですが、それにしても最近の藤井聡太七段の安定感はすごいことになってきてますね。今年はまだタイトル戦の挑戦の可能性は3つ残ってますから、ひょっとしたらひょっとするかもというのを周囲に感じさせることができるというのは、注目が継続するという意味で非常に良いですね。

都成竜馬五段も相当に強かったと思うんですが、もう受けきりというか、素人目にみてももうすごい状態で、最終版は都成さんのメンタルを心配したファンの方も多いのではないでしょうか。都成竜馬五段も昨年度で順位戦で昇級を決めて、乗っているだけに、また他の対局でもがんばっていただきたいですね。

佐藤天彦名人が76期名人戦を制して3連覇

先日の76期名人戦の七番勝負、第六局を制して佐藤天彦名人が3連覇を達成。同郷の身としてはうれしい限りですが、羽生善治竜王にも勝ってほしかった気持ちもあり、非常に複雑なところです。しかし、佐藤天彦名人の安定した強さが際立った七番勝負でしたね。
しかし、このクラスの横歩取りや居飛車の力戦調の勝負は、見ていておもしろい半面、アマ初段とか、その程度のクラスだともはやソフトなしでは理解しにくいところがあります。最終盤とかにまでいけばわかるものの、中盤以降は解説聞いていてもどちらが優勢かを自分の中で咀嚼することが難しいところです。

わかりにくく、難解であるからこそおもしろなと思うと同時に、これは将棋に興味がない人にすごさはまったく伝わないんだろうなとも思い、将棋の魅力の難しさを改めて考えるところにいたった次第です。

羽生世代にもがんばってほしいですが、若手の台頭というのは、次代を育てるという意味においてとても価値があります。若い世代の棋士は、若い世代のファンを作るためにとても重要で、基本的に自分を投影できる相手のファンになりやすいという人間の特性を考えると、次の将棋ファン層を作るためには、若手、そして女性の皆さんの活躍が、将棋界では必要とされるところです。羽生世代は当然、恐ろしい貢献をしてきましたが、その後がしばらく間があいてしまっているので、そこの空白期間のファンが抜け落ちており、ファン層の高齢化が構造的な課題ともいえます。将棋普及、そして歴史をつなげていくためには若手や女性の将棋指しの皆さんにぜひ頑張ってもらいたいですね。

西山朋佳三段が初タイトルとなる女王を獲得。この勢いを活かして初の女性プロ棋士へ突き進んでもらいたいですね

奨励会の三段リーグでがんばっている西山朋佳三段が女流の棋戦であるマイナビ女子オープンで加藤桃子女王を破って初タイトルを獲得。三段リーグでも勝ち星先行の好位置につけているだけに、この流れで勢いをつけてぜひがんばってほしいですね。女性初のプロ棋士の誕生は、いろんな人の悲願でもあり、里見香奈さんが奨励会を退会した今年は、これまで以上に西山朋佳三段にみんなの思いが集中してくることになります。それがプレッシャーとなってしまうのはみんなの望むところではないはずですが、やっぱりどうしても期待をせずにはいられません。

加藤桃子女王も永世女王の獲得がかかっていただけに、悔やまれる敗戦で、どちらも応援しているファンからすると非常につらい勝負でした。それにしても、称号とされている「女王」って、少し呼ぶのが恥ずかしい気がするので、もうちょっと呼びやすい称号だったらよかったのになと思う次第です。